いまから、十数年前のこと。
秋田県秋田市高陽幸町にそのパソコンショップはあった。
開店当初は3人が派遣されたのだが、半年過ぎても売上げが芳しくない。
上層部としてはこのままではイカンという判断で、わたしが店を運営することになった。
ただし、一人で。
「は?
3人で売り上げられないのに、わたし一人で売り上げろと?」
「人件費が出ないからしょうがないじゃないか!
売れなかったのは、そもそもお前の部下なんだから」
そういった何とも理不尽な理由で、ともかく秋田に来た。
赴任前に本部から指示されたことは、ともかく常連客が邪魔だから接客もままならない。
まずは、その辺を整理して接客を重点的にせよということだった。
その常連客とは中学生ばかり10人位のグループだった。
学校が終わるとパソコンをいじりに来る。
当時のパソコンは本体、ディスプレイ、プリンターにワープロ、表計算という組み合わせで100万円前後。
高価なものだったのだ。
今の中学生でもそうだろうが、当時の中学生が100万円も自由になるお金が無い。
100万円だせば車が買えてしまう時代だ。
興味があっても触ることができず、パソコンショップが絶好の遊び場だったことは想像に難くない。
放課後になるとやってくる。
土日にもやってくる。
本部の指示では中学生の常連客を追い出せということだったが、そのままにしていた。
なんといっても、店が一人きりで寂しいからね。
店に来て、わたしがやったことはPOPの書き直しだ。
黄色い下地の大きな紙に黒い文字で価格とキャッチコピーを書き、
次にコンピュータの特徴を手のひら大のカードに細かく書いた。
キャッチコピーで興味を持った下見客が、さらに深く知りたいならカードを読むように仕掛けたのだ。
何しろ一人きりだから、何度も聞かれるような質問はすべて書いておいたのだ。
土日になるとパソコンが欲しい下見客が続々と訪れる。
予想通り、下見客はカードをシゲシゲと読んでいる。
それでも質問対応は必要だ。
なにしろ、高額なものだから疑問があったらとことんまで質問される。
そして、実際の契約に至るとローンの手続きをする。
支払い回数を選んでもらう。
ローン会社の早見表があるのだけれど、そこはパソコンショップである。
月々の希望支払額を入力すると自動的に何回払いという計算をできるようにプログラムした。
契約用紙に記入してもらってFAXするのだが、一連の手続きに30分はかかる。
その間待ちきれず、何人も帰ってしまう。
ここで質問。
下見客を帰さないようにするには?
あなたならどうしますか?
常連の中学生にパソコンの説明を任せた。
下見客としては、パソコンの疑問を店長(わたしのことだ)に質問するよりも、ちょっとそこのボク?これはどういうこと? と聞くほうが敷居が低い。
そんなわけで、最初は中学生に接客をまかせた。
そのうち、大人の常連客も増えてきた。
パソコンを買ったあとに使い方を聞きに来る。
見ようによっては、秋田の店はパソコン塾のようになった。
気が付いてみれば、売上げは以前3人で回してた時よりも5倍になっていた。
もう一つの嬉しい成果。
中学生が卒業するとき、高校への進学の祝いにと、つぎつぎとパソコンが売れていった。
親御さんからは、いつもお世話になりありがとうございますという感謝の声も戴きながら。
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